口約束は有効か?

私は知人の甲さんに、中古の自動車を三〇万円で売る約束をして、代金を払う日や引渡の日も決めたんですが、お互いに信用して特に契約書は作りませんでした。でも、そのあと、この車を五〇万円で買いたいという人が現われましたので、甲さんとの約束はなかったことにしたいんです。契約書は作ってないんですから。

A(弁護士) あなたは売買の約束をしても、これを契約書という書面にしておかないときは、契約は成立していないから、この約束を破ることは自由ではないのか、とお考えのようですね。

Q はいそうです。(契約とは約束ごとである)

A 契約というのは何も特別なことではないんです。私達の日常生活における約束ごとがつまり契約なんです。あなたが甲さんに車を売りましょうといい、甲さんが買いましょうといい、両者の間で代金等の他の諸条件が合えば、それで契約は成立したことになるのです。

Q そうすると、契約は相手方との口約束だけで成立し、契約書は作らなくとも有効だということですか。

A そうです。ですから、あなたは甲さんとの約束通り実行しなければなりません。(私達の日常生活の中には、電気や水の供給を受けたりバスや電車に乗ったりすることなど、契約書を作らない契約の例は沢山あります。契約書は証明書である。)

Q では何でわざわざ契約書を作るんですか。

A それは、約束の成立や内容を証明するために作るのです。ですから、契約書を作るかどうかは、契約者が自由にきめることなのですが、重要な契約については後で争いにならないように必ず作っておくべきですね。

Q わかりました。契約書をつくらないからといって軽率な約束はしないよう以後気をつけたいと思います。(覚書や念書も契約書である)

Q ついでにお聞きしますが、覚書や念書と書いた書面と契約書と書いた書面とではどう違うんですか。

A 全く違いはありません。お互いに約束した内容を記載した文書であれば、標題に覚書あるいは念書と書いてあっても、それは契約書です。ですから、これらの標題の書面が契約書と書かれている書面よりも証明などの効力が低いということはありません。覚書や念書と書かれた書面を作るときも、内容については充分注意して下さい。


口約束は有効か?(慰謝料編)

新聞やテレビの報道で慰謝料という文字を見ることがよくあります。今回は慰謝料について二、三のお話をしたいと思います。

慰謝料を法律的にいえば精神的苦痛に対する損害賠償金ということになりますが、慰謝料の最高額はどの位なのでしょうか。

慰謝料は法律で金額が定まっているのではありません。裁判所は過去の裁判例や社会・経済情勢などを踏まえて妥当な慰謝料を決めているのですが、一般的には死に対する慰謝料が最高であると評価されています。

交通事故の裁判例によれば、一家の支柱となっていた人が死亡した場合、その人に対する慰謝料は二〇〇〇万円以上とされることが多いようです。もちろん、この場合は慰謝料のほかに、生きていれば将来稼ぐことができた収入なども損害賠償の対象になります。

離婚のときの慰謝料はどの位なのでしょうか。よくタレントが離婚する場合に、慰謝料として何千万円、何億円を支払ったとか騒がれます。しかし、このようなときの慰謝料のなかには、純粋な慰謝料と区別されるべき財産分与の金額も含まれているのが実際です。

財産分与とは、離婚の際に一方の配偶者から他方の配偶者に対して財産を分け与えることをいいます。結婚中に築き上げた財産は、たとえばそれが夫名義のものであっても、妻の内助の功を無視することができません。この妻の働きを離婚の際に財産分与として清算するのです。

このほか、財産分与には、経済的立場の弱い者に対する離婚後の扶養という機能もあります。

それでは、純粋の慰謝料はどの程度のものなのでしょうか。

離婚原因によっても異なりますが、不貞行為を原因とするときの最近の裁判例を見ると三〇〇万円とか五〇〇万円という例を発見できます。

しかし、二〇〇万円という例や反対に一〇〇〇万円を越える例もあり、画一的に述べることはできません。不貞行為の内容や当事者の社会的地位・職業などいろいろな事情によって左右されるのです。

なお、被害者にも責任のあるときは減額されることに注意しましょう。

口約束は有効か?(約束手形編)

「ここに一通の約束手形があります。

額面欄には文字で『金壱百円也』と記載され、その右上段に『\1,000,000.―』と書かれています。収入印紙は二〇〇円が貼られています。この約束手形では一体いくら支払ってもらえるでしょうか」

Aさん 額面欄に文字で書かれた金額が支払われるべき額で数字で書かれたものと金額に違いがあっても問題にならないから「一〇〇円」である。
Bさん 現在の経済常識からいって一〇〇円の約手など存在せず、何より一〇〇万円に相当する収入印紙二〇〇円が貼ってあるのだから「一〇〇万円」である。
Cさん 文字で書かれた額と他に数字で書かれた額がちがうということはどちらの金額とも決められないから手形として無効である。
という解答がありましたが、皆さんはどの解答が正しいと思いますか。

これは実際にあった話ですから新聞などによってご存知の方もあると思います。Bさんの言うように、現在の経済常識からいえば一〇〇円の約手などまずありません。一〇〇万円に決まっている。何故なら印紙も一〇〇万円に相当する額が貼ってあったというのですから。

ところが、皆さんの経済常識が通用しないこともあるのです。手形法六条一項は「金額ヲ文字及数字ヲ以テ記載シタル場合ニ於テ其ノ金額ニ差異アルトキハ文字ヲ以テ記載シタル金額ヲ手形金額トス」といっています。

最高裁判所は、この条文に忠実に従い「壱百円」は文字で「\1,000,000.―」は数字だから、一〇〇円を支払うだけでよいと判決しました(昭和六一年七月一〇日)。
 
というわけで、クイズの正解者はAさんということになります。この事案は「壱百万円」とすべきところ「壱百円と書き違えたものと思われます。現在の社会における手形の有用性はますます高まってゆくと思われますので、実際の手形の授受の差異には金額の確認作業をおこたることのないよう心掛けたいものです。