整  理  解  雇

Q 当社は家電メーカーの下請をしていますが、近年の不況の煽りを受けて業績は二年連続で下降しています。やむなく従業員を解雇しようと考えていますが、どのような点に注意すべきでしょうか。
A わが国では、終身雇用制度が建前になっているので、被用者は、雇用の継続についての期待を有すると共に、有利な条件での転職は依然として難しいことから、会社には従業員の解雇を回避すべく努力しなければならない義務があるとされています。
従って、整理解雇は、不況、斜陽化、経営不振などによる企業経営上の必要性に基づくものでなければなりません。
この必要性が認められるには、当該人員削減措置を実施しなければ当該企業が倒産必至である事までは必要ではありませんが、人員削減措置の決定後、大幅な賃上げや、新規採用、高率の株式配当などの、措置がとられたときは人員削減の必要性が認められないこともあります。
また、会社は整理解雇を回避すべく解雇という手段を選択する前に、配転、出向、一時帰休、退職金の優遇措置を用いた希望退職者の募集などの手段を用いるべきであり、このような手段を試みずにいきなり整理解雇をおこなった場合には、その解雇は解雇権の濫用とされます。
さらに、整理解雇を行うに当たっては、客観的かつ合理的な基準を設定し、これを公正に適用しなければならないとされています。
適切な基準と認められるものとしては、欠勤日数、遅刻回数、規律違反歴などの勤務成績や、勤続年数などの企業貢献度、及び被雇用者に対する打撃の低さなどがあり、たとえば、「共稼ぎの者で配偶者の収入で生計が維持できる者及び兼業または副業があり、もしくは財産の保有など別途の収入があり退職後も生計が維持できると判断される者」、「三〇歳以下の者」などの整理基準は合理的であるとされています。
反対に、「会社の今後の経営にとって必要な技術の進歩の見込みのある者」という整理基準は恣意的運用のおそれがあり客観的な基準とは認められません。
最後に、労働協約上、人員整理について、使用者に組合との協議を義務づける条項がある時はもちろん、そのような定めがされていなくても、使用者は被用者に対して整理解雇の必要性とその時期・規模・方法について納得させるために説明を行い、誠実に協議するべき義務があり、これを行わない解雇処分は解雇権の濫用とされます。単に、解雇処分を有効ならしめるためにというだけでなく、円滑に人員削減を進めるために被用者との十分な協議が不可欠ですから、時期・規模・整理基準などについて、被用者と十分に協議を尽くすべきです。
なお、整理解雇も、解雇の一種ですから、一般に解雇に要求される予告などの要件が必要です。

同族会社の株式の相続

1 我が国の株式会社の約九八%は資本金一億円以下の会社によって占められています。このような会社の多くは、オーナー社長個人を中心とした同族によって成り立っており、会社の株式や経営権もオーナー社長に集中しています。このような同族会社で、オーナー社長にもし万が一のことがあった場合には会社に対する支配権や経営権をめぐって争いが起こることがあります。
2 オーナー社長が死亡した場合その所有する株式は、財産権の一つとして相続の対象となることは言うまでもありません。そして、遺言がないとすると故人の持ち株の帰属は各相続人間の遺産分割協議によって決まることになります。この遺産分割協議が直ちにまとまり、後継者に対する株式の移動がスムースに行われれば問題はないのですが、オーナー社長は、会社の株式以外にも他に財産を残していることが多く、これらの財産の帰属との兼ね合いで会社の株式の帰属だけを優先して決めるということは大変難しいことです。そこで、まず遺産分割協議中の株主の地位はどのようになるのかが問題となります。この点について判例は共同相続された株式は相続人全員の準共有となり遺産分割協議中は当然に相続分に応じて分割されていると扱うことはできないとしています。したがって、各相続人は各相続分に応じて株主としての権利を行使することはできず、会社の方からも権利行使に応じてはいけないことになります。
3 このように共同相続された株式が準共有の関係になるとしたら会社に対して株主の権利を行使するにはどのような方法をとらねばならないのでしょうか。この点につき判例は、商法第二〇三条二項に従い各相続人間で遺産分割協議が整うまでは代表者一名を選んでその者に株式全部について権利行使させるべきであるとしています。そして、各相続人の代表者選定行為は多数決ではなく全員一致でなくてはならず選定後においても、相続人の一人でも選定行為を取り消せば、相続株式全部について誰も権利行使できないとしています。代表者が決まれば会社に対し、株式の名義を共同相続人名義に書き換えるように求め代表者届を出しその代表者が権利行使することになります。しかし、代表者の選定行為が全員一致でなければならないことから代表者の選定をすることは極めて困難で、通常は故人の株式については権利行使できない状態に置かれてしまいます。このように故人の株式が権利行使できない状態が長期間続きますとその後の会社の経営は極めて厳しいものとなります。
4 そこで、このような不測の事態を避けるためには、どのような方策があるのでしょうか。やはり、オーナー社長は日頃から誰が後継者にふさわしいかを見極め、遺言それもできれば公正証書遺言で後継者と株式の帰属を明確に定めておくべきです。そうすれば相続の開始と同時に遺産分割協議をすることもなく後継者に対してスムースに株式の承継ができ会社の運営もうまくいくことになるでしょう。


マンションの補修・建て替え

堅牢なビルやマンションなども何ら手を加えないままでいると老朽化し、スラム化してしまいます。そこで、補修や建て替えが必要となりますが、建物を共同で所有している場合にはその意見調整が当然、必要となります。
「建物の区分所有等に関する法律」が分譲マンションや共同ビルの法律関係を定めており、補修、建て替えについてもこの法律に規定されています。
まず、補修工事ですが、専有部分以外の共用部分、たとえば建物の外壁の補修などについて、区分所有法は、これを区分所有者の集会で多数決によって決することとしています。ただし、この決議にも二通りあり、大規模な補修か否かによって、特別決議 (区分所有者及び議決権の各四分の三以上) を要するか、通常の普通決議 (区分所有者及び議決権の各過半数) で足りるかが区別されます。なお、専有部分については、各区分所有者自らが補修工事を行うことができるのが原則です。
共用部分の補修工事について、その費用は区分所有者全員がその持分の割合によって負担すると区分所有法は規定していますので、補修決議に反対した区分所有者も費用負担には応じなければなりません。大規模な補修工事になると修繕積立金だけでは到底、足りず、多額の費用を徴収する必要が生じます。支払いに応じない所有者に対して管理組合は、訴訟によって強制的に費用を徴収できるほか、先取特権という特別の権利を行使することもできます。しかし、実際には、このような手段に訴えるよりは、積立金を預けている銀行と交渉し銀行融資を可能にするなどして、各人が協力しやすい環境を作ることのほうが重要と思われます。
これに対して、建て替えは各区分所有者に多大の影響を与えますので、決議要件も極めて厳格です。すなわち、老朽その他の事情により建て替えが必要とされる合理的理由が存在し、かつ、区分所有者及び議決権の各五分の四以上の賛成が必要です。また、費用についても、区分所有法は売渡請求権という制度を設け、建て替えに賛成する区分所有者はこれに反対する区分所有者に対して、その区分所有権を時価で売り渡すよう請求できると定めています。これによって、建て替えに賛成な者に所有権が集中すると共に、反対な所有者は売買代金を受領して共同所有関係を断ち切ることができるのです。
補修、建て替え、いずれの場合にも各区分所有者が、区分所有法その他の関係法規及び管理組合が自らが定めた規約等を詳細に検討したうえで十分に話合い、信頼関係を維持し続けることが大切なことは言うまでもありません。