社長が死亡したが不動産を売却する場合

Q 不動産売買の話が煮詰まっていた矢先、社長が死亡しました。
ワンマン社長で実印も権利証も自分で管理していて、誰も何処にそれがあるのか分かりません。どうしたら良いでしょう。取締役は今まで三人でした。
A オーソドックスな方法としては、株主総会で欠員の取締役を補充し、取締役会で新たな代表者を選任して売却するのでしょうが、急ぐ場合のお尋ねだと思います。
昭和四〇年七月一三日民甲一七四七号の通達では、死亡により二名になった取締役で取締役会を開き、代表取締役選任の登記が出来るとあります。取締役の印鑑証明は必要です。
Q 死亡でなく、社長が代表印を持ったまま行方不明の場合はどうでしょうか。
A 会社の代表印をめぐるトラブルとしては、①代表者による代表印持ち出し、②第三者による代表印持ち出し、紛失、③印鑑証明書と書類の持ち出し、が考えられますが、①の場合、本人がいないので改印届は出来ません。解任して新たな代表者を選出することなら出来ます。代表取締役の解任は、取締役会の決議で出来ますが、取締役であることそのものの解任は株主総会を開くことが必要です。②の場合、改印又は廃印が社長の個人の実印を使って出来ます。③の場合、改印が出来ますし、法務局への届出や司法書士会への連絡等が必要となってきます。ご質問は①の場合ですね。
Q 権利証がないときには、どう対処したら良いでしょうか。
A 不動産登記法四四条は、登記義務者の権利に関する登記済証が滅失したときは申請書に既に登記を受けた成年者二人以上が登記義務者の人違いでないことを保証した書面二通を添付することで登記出来ると規定しています。
この場合保証をなす者が当該登記所でない他の登記所で登記を受けた場合、その登記簿謄本を添付することになります。従前は、その登記所で登記を受けた者でなければならなかったのが、現在では他の登記所でも良いことになっています。
この保証書で登記申請があった場合、登記官はこれを登記義務者にその旨を郵便で通知し、義務者が三週間以内に間違いない旨回答すれば登記は受理されます。つまり保証書とは、義務者が登記簿上の権利名義人と同一であることを保証するだけでその登記のときだけしか使えませんから、登記済証に代わるものではありません。
Q 会社の代表者の変更登記には、どんな書類が必要でしょうか。
A 死亡を証する書面、取締役会議事録、代表者の就任承諾書、取締役の印鑑証明書ですが、死亡を証する書面は、別に死亡診断書を添付する必要はなく、亡くなった方の配偶者の死亡届で充分受理されます。
Q ありがとうございます。これで売却のチャンスを逃すことなく、我が社の資金繰りも助かると思います。

債権差押えと第三債務者の供託

Q 買掛先が倒産して裁判所から債権差押命令が来ましたが、どういうことですか。
A あなたの会社の買掛先(甲野商事)の債権者(乙野工業)が、買掛先(甲野商事)のあなたの会社に対して有する売掛金等をあなたの会社は買掛先(甲野商事)に支払ってはならない、債権者(乙野工業)へ支払えということです。書類には買掛先は債務者、あなたの会社は第三債務者と記載されます。決してあなたの会社が差押えられたのではなく、買掛先が差押えられたのです。
Q 第三債務者である私の会社としてはどうすべきですか。
A 債権の内容に相違がないか確かめ、逆に相殺できる債権がないか探します。本社だけでなく支店や工場の分もです。
Q 陳述書という用紙が二枚同封されて来ましたが。
A 注意書も入っていますから、それをよく読んで債権のある・なしと支払いの意思のある・なしおよび他からの仮差押・差押・滞納処分のある・なし等を書いて一通を裁判所へ一通を債権者へ送ります。
Q 支払いはどうすればよいでしょう。
A (第三債務者であるあなたの会社へではなく)債務者へ債権差押命令が送達されて一週間経過すると確定しますから、債権者は裁判所から送達通知書をもらってあなたの会社へ支払ってくれと連絡して来ます。送達通知書には債務者と第三債務者に送達された日が記載されていますから、それによって確定しているかどうかを確認して下さい。
Q その後執行停止の通知書が裁判所から来ると支払ってはいけないそうですが。
A そうです。その執行停止を取消す通知が来るまでは支払ってはなりません。
Q 債権者に支払うときの注意は。
A 初対面の人に払うのですから送達通知書の他に印鑑証明書と実印を押捺した領収書の持参を求めます。もし弁護士が代理人として受領に来られるなら委任状の他に、弁護士の登録印であることの弁護士会長発行の印鑑証明書の添付を求めます。
Q 銀行へ振り込んでくれと言われたら。
A 電話だけでなく、必ず文書かFAXで依頼させてください。送達通知書の写を送らせることももちろんです。
Q もっと簡便で二重払いの危険のない方法はありませんか。
A それには法務局へ供託することです。執行停止の通知書が来ても供託はできます。
Q どこの法務局でもよいですか。
A いいえ、あなたの債務履行地の法務局です。支局や出張所で受付けるところもありますので、電話で確認してください。
Q 法務局へは支払うべき金額と印鑑を持参すればよいのですか。
A その債務の支払期日までなら元金だけでよいのですが、期日後は遅延損害金を加算した額です。それにあなたの会社の登記簿謄本も必要です。
Q 委任状は必要ですか。
A 代表取締役名で供託するなら不要です。代表取締役印の持出せない会社なら供託書に訂正個所がないように気をつけましょう。社員が代理人として供託するときは委任状を要します。委任状には供託書の内容を全部書いてないといけません。



少額訴訟制度について

Q 今年から、民事訴訟法が変わって、即決で判決がなされる「少額訴訟制度」が創設されたと聞きましたが、それはどういうものですか。
A 簡易裁判所の手続きで、三〇万円以下の金銭支払いを求める訴えに限り、即時に取り調べられる証拠に基づいて、原則として一回の審理で直ちに判決がなされる、という制度です。
Q 一回だけ法廷に出席すれば、その日に判決がもらえると言うのですか。
A そうです。
Q 即時に取り調べられる証拠というのは何ですか。
A 書証とか審理の日に出頭している証人や当事者本人などです。それ以外の呼び出しを要する証人や検証、鑑定などの時間のかかるものは証拠とすることができません。但し、電話会議による証人尋問制度が認められましたので、出廷できない証人を電話会議の方法によって証人として取り調べることができます。
Q 判決の内容で何か変わったことはありますか。
A 原告の請求を認める場合には、今までですと直ちに一括で支払うよう命じておりますが、この制度では、三年以内での支払猶予や、分割払い、更には遅延損害金の免除などを命ずることもできます。
Q 金銭支払いを求めるもの以外はこの制度は利用出来ないのですか。
A そうです。建物の明け渡しとか登記手続きを求める訴えなどはこの制度は使えません。
Q 三〇万円以下の金銭支払いを求める訴えはすべてこの手続きで審理されるのですか。
A そうではありません。原告がこの制度を利用することを希望し、被告がこれに異議を述べない場合にのみこの制度が利用できます。
Q 被告がそのような手続きはいやだと異議を述べたらどうなりますか。
A 今まで通りの通常の訴訟手続きで審理されます。
Q 少額訴訟手続きの判決に不服がある時は控訴ができるのですか。
A 控訴はできません。但し、同じ簡易裁判所に対して異議の申立ができます。異議の申立をした場合に、通常の手続きで審理がやり直されますが、やり直しの結果下された判決に対しては控訴はできません。
Q この少額訴訟手続きは法律に詳しくない人でも利用できますか。
A そもそも、この少額訴訟制度は、一般の人が裁判所を利用し易いようにとの目的で創設されたものですから、手続き説明書が裁判所から交付されるなど、一般の人が利用しやすいよう配慮されています。

○注 平成二〇年現在、六〇万円以下の金銭請求となっています。