会社分割について
Q 平成一二年の商法改正により、会社分割制度が創設され、従来よりも容易に営業の全部または一部を他の会社に承継できるようになったと聞きますが、詳しく教えて下さい。
A おっしゃるように平成一二年の商法改正で会社分割制度が創設されました。従来はこの制度がない為営業譲渡や現物出資等によるほかなかったのですが、新法で新設分割と吸収分割(既存の他の会社に承継させる制度)が出来、検査役の調査がいらないだけでなく、①営業に対する対価が支払われない。②承継会社から新株が発行されることになり承継会社の資本構成に変動が生じる。③利益準備金、剰余金、引当金等の引継ぎが認められる、等が従来の手続と異なります。
Q 手続はどのように行いますか。
A ①分割計画書、分割契約書の作成 ②労働者保護手続 ③分割計画書等の備え置き ④株主総会での分割計画書等の承認 ⑤反対株主の株式買取請求権 ⑥債権者保護手続 ⑦事後の情報開示の順で進みますが、詳しくは弁護士に相談してください。
Q この制度はどのように活用できますか。
A 沢山あります。①マネジメント・バイアウト(MBO)と言って、新会社を設立して他社の事業部門を買い取る。②合弁会社を設立するのに株式を割り当てるだけで可能。③分割会社の営業全部を新設会社に譲渡して、分割会社を完全親会社とする。④持株会社の下にある子会社を分割し、企業を再編成する。⑤オーナー企業の相続対策としてそれぞれの相続人を別々の会社の株主とする。⑥事業を売却して、売却先の会社の株主となる。⑦合弁を解消して、それぞれに親会社に振り分ける。⑧マイノリティ・キャッシュアゥト、つまり少数株主対策で分割会社の営業のすべてを設立会社に移転し、分割会社がもっている設立会社の株式をすべて他の会社に譲渡し、その後に分割会社を清算する。等です。
Q ずい分活用方法があることがわかりました。それでは会社分割における株主総会や取締役会の地位はどうなるのでしょう。
A 会社分割は株主に大いに利害をもたらしますので、三分の二の特別決議が必要です。取締役会は、どの営業をどのタイミングでどういう形で分割するか決定し、正確に株主に伝えなければなりません。
会社分割では、分割する営業も自社に残す営業もすべて自社の営業ですから取締役は情報を正確に把握していることが要求されます。したがって会社分割によって会社が損害を被った場合には、分割時点では予測し得ない状況が事後的に発生した場合は別として、その会社の取締役はその損失を生ぜしめた責任を免れることは難しいとされています。
Q 労働者保護手続とはどんなものですか。
A 商法の改正と共に「労働契約承継法」ができ、分割会社は労働者に情報を通知し、もし労働契約が承継されない案で異議を述べれば、契約は承継される等が内容です。
賃借建物が競売された==敷金はどうなる?
Q 私の借りているアパートが競売されてしまいました。部屋を明け渡さなければならないでしょうか。
A そのアパートに抵当権が設定されていたと思いますが、一番最初の抵当権が登記された日よりも前にあなたが部屋を借りていたのであれば、あなたは新しい所有者に対して賃借権を主張して住み続けることができます。しかし、抵当権の登記の日よりも後に借りた場合は、賃借権を主張することができなくなります。
Q 賃借権を主張できなくなるというのは必ず明け渡さなければならないということですか。
A そうとは限りません。新しい所有者が明け渡しを要求してきた場合には明け渡さなければなりませんが、新しい所有者が今まで通り住んでも良いと言ってくれれば、新しい所有者との間で契約を結んだことになり明け渡す必要はありません。
Q 新しい所有者が明け渡しを要求してきた場合には、すぐ部屋を明け渡さなければならないのですか。
A 元の大家さんとの契約内容如何によります。契約期間が三年以下となっている場合には、「短期賃借権の保護」といって、その契約期間の満了までは住んでいることができます。しかし、契約期間が三年を超えているときは短期賃貸借とは言えず明け渡さなければなりません。
Q 私の場合は、三年契約ですが、もう何回も契約を更新しているのです。それでも短期賃貸借といえるのですか。
A 契約が更新されていた場合でも「短期賃借権の保護」は受けられます。但し、建物が競売される時には、まず最初にその建物の登記簿に差押えの登記がなされるのですが、その差押えの登記の日以降に契約の期限がきた場合にはそれ以降の契約の更新はされませんので注意が必要です。なお、差押え登記の日よりも後に初めて契約をした場合は三年以下の期間であっても「短期賃借権の保護」は受けられないことになっています。
Q 私の隣の人は大家さんと契約書を取り交しておらず契約期間について取り決めをしていないと言っていました。この場合は短期賃貸借といえるのですか。
A はい、期間の定めがない賃貸借でも短期賃借権の保護は受けられます。しかし、その場合は所有者からの契約の解約の申し入れがなされ、契約時から三年以上たっている場合には、正当事由ありとして解約が認められる可能性が高いと思います。
Q もし私がアパートを引っ越すことになったときには、元の大家さんに差し入れておいた敷金は誰から返してもらったらよいのでしょうか。
A 原則として、敷金を預けた元の大家さんから返してもらうことになります。しかし、あなたが、新しい所有者に対して賃借権を主張できる場合か、少なくとも短期賃借権を主張できる場合には、新しい所有者から返してもらうことになります。
遺言書の作成は元気なうちに
Q 公正証書で遺言書をつくりたいのですが、心得ておくべきことを教えて下さい。
A 一番大事なことは、意識の確かな間に、早めに作成しておくことです。
意識がはっきりしなくなってから作った公正証書では、その遺言によって不利益を受ける相続人が不服で公正証書は無効だと言い出す恐れがあります。
Q 意識がはっきりしているとは、どのような状態をいいますか。
A 遺言者が遺言の内容を「口授」できることが必要です。口授は「くじゅ」とも「こうじゅ」とも読めますが、公証人の間では「くじゅ」と読まれているようです。
Q 口授とはどうすることですか。
A 口授とは口頭で述べることです。言葉によらないで動作でうなずいたり、それで良いといっただけでは、口授したとはいえません。
遺言者が自分の言葉で、遺言の内容をある程度具体的に述べることが必要です。
Q 遺言者の依頼の趣旨に基づいて、公証人が遺言書の原稿をあらかじめ用意しておく方法は、如何でしょうか
A 判例によれば遺言者が「物件を特定し得べき程度に於て遺言の趣旨を口授すると共に之が朗読を省略し其覚書を公証人に交付して之に基き物件の詳細なる記載を為すべきことを委託する」のは遺言の趣旨を口授することだといっています(大審院大正八年七月八日判決民録二五輯一二八七頁)。
Q 物件の特定とはどの程度をいうのですか。
A いくつか場所が分かれて不動産を所有している場合、例えば、世田谷のマンションは長男に、目黒の土地は次男にといえば、それでよいわけです。またマンションの部屋であるならば、一〇一号室は長女に、一〇二号室は次女にといえば、よいのです。
Q 遺言者の死亡後に相続人の間で遺言書の効力について争いが起こるのを防ぐには、どうすればよいでしょうか。
A 相続人間の争いを防ぐには、二つの点に注意することです。
まず、遺言者の意識の明確な間に公証人に作成を依頼することです。
遺言の作成は、思い立ってから完成するまで、相当時間を要することがあります。それは遺言者が高齢なため、いろいろ迷われて結論がなかなか出ないからです。弁護士のところへ相談に来られて数ヶ月かかり、完成しないまま亡くなった方もあります。ですから入院でもするようになったら、なるべく早く取りかかることです。証人として利害関係のない者二名の立合が必要です。心配ならその内の一名を担当の医師にお願いするのもよいことです。
次に、遺言の内容が相続人の間で不公平にならないこと、少なくとも各相続人の遺留分を侵害しないことです。遺留分とは相続分の二分の一です。兄弟姉妹には遺留分はありません。