民事再生法施行後の状況

輝 どんな会社が利用していますか。
機 平成一四年四月から施行された民事再生法は一部上場企業も申立てるなど、社会的注目を集めていますが、平成一二年四月から平成一三年九月まで全国で一五三〇件(うち東京で八六八件)が申立てられました。負債五億円から二〇億円位の企業が多く、又資本金では四〇〇万円から一〇〇〇万円位の企業が多いです。再生手続開始まで平均一五日であり、一五三〇件のうち七一一件が手続を開始し、二一一件が棄却又は取下げで終了しています。
輝 予納金はいくらぐらいですか。
機 民事再生事件には、監督委員の報酬にあてるため、予納金を納付することが必要ですが、その基準は上の表のようになっています(以下東京地方裁判所の例)。
 ところで、急いで申立てる場合に一度に納付できないことを考慮し、東京地方裁判所では、申立て時に六割を納付し、残金は二ヵ月以内に納付すれば足りることになっています。
輝 保全命令はすぐ出ますか。
機 申立てには、少なくとも一日前に裁判所との事前相談が必要ですが、申立てがあると原則としてその日のうちに「弁済禁止の仮処分」が発令され、監督委員の選任もできます。東京地方裁判所では、申立てられた全ての事件に監督委員が選任されています。
輝 その後の手続はどうなりますか。
機 債権者集会の召集決定をするまでに一ヵ月ごとに三回、裁判官と申立人、申立代理人、監督委員が集まり、手続を進めます。
 監督委員は必ず公認会計士を選んで財産的な調査報告をして貰います。公認会計士による調査費用は予納金の二割以内となっています。
 開始決定は、再生計画が立たないことが明らかでない限り出ると考えてよいようです。そして六ヵ月程度で債権者集会が開かれます。
 担保権実行中止命令は、債権者集会の期日まで延長する旨予告されます。
 この法律で一番話題になった担保権消滅請求(担保物の時価を一度にスポンサーが払うことで、担保を消滅させる方法)は、一括払いをするスポンサーが殆どいないことから、実例は殆どありません。
 営業譲渡して再生を図る例はかなりあります。
輝 再生計画の内容について教えて下さい。
機 再生計画が実行されないと強制執行ができるようになりました。それでも金融機関は、担保で評価される分は、カットしないと考えて下さい。しかし、金利を若干カットしてその支払方法を猶予してもらうという計画は可能です。
 計画を作る場合、破産より有利であることを具体的に示す必要があり、又、実現性が高いこと、経営責任の所在が明確であること、金融機関にとってメリットと合理性があること等の要件をクリアーする必要があります。議決権の総額の二分の一以上が可決要件ですから、事前の根回しが必要なことは言うまでもありません。

給 料 は差し押さえられますか?

訓 借金をして返さないと給料を差し押さえられることがあると聞きましたが、給料の差し押さえとはどういうことですか。
掘 裁判所が本人の勤務先に対して「債権差押命令」という書面を発して、勤務先に対して、給料や賞与、退職金等の一定額を本人に支払うことを禁じ、そして、それを債権者に取り立てることを許す制度です。
訓 えっ、差し押さえられるのは、給料のみではないのですか。
掘 そうです。給料のほか、ボーナス(賞与)や退職金も差押の対象になります。
訓 それらは、全額が差し押さえられてしまうのですか。
掘 原則として、それぞれについて、四分の一の額のみが差し押さえられることになっています。但し、給料と賞与については、その額が二八万円(月給の場合)を超えるときはそれぞれ二一万円を超える額が差し押さえられます。例えば、月給が二〇万円の場合には四分の一の五万円が差し押さえられ、月給が四〇万円の場合には、二一万円を超える一九万円が差し押さえられます。
訓 基本給のほかの諸手当も差し押さえの対象になるのですか。
掘 なります。但し、通勤手当、出張旅費等の実費部分は差し押さえの対象になりません。
訓 四分の一というのは、何が基準になるのですか。支給総額ですか、手取額ですか。
掘 支給総額から所得税、住民税、社会保険料を差し引いた金額を基準にします。
訓 差し押さえはいつまで続くのですか。
掘 債権者の請求している債権額に充るまでです。
訓 転勤や、配置換えになった場合にも給料の差し押さえの効力は続くのですか。
掘 はい、続きます。
訓 本人が勤務先を退職した場合にはどうなりますか。
掘 給料が支給されなくなりますので差し押さえの効力はなくなります。しかし、形だけ退職して再就職したことにした場合には、差し押さえの効力は続くことにされます。最高裁は、再雇用されるまでに六ヶ月を経過した事案では、差押の効力が及ばないとしています(昭和五五年一月一八日判決)。
訓 役員報酬は差し押さえの対象になりますか。
掘 はい。役員報酬は全額が差し押さえの対象となります。但し、サラリーマン重役の場合には、給料部分と役員報酬部分が区別されて、給料部分については先ほど述べた差し押さえの範囲が一部に限定された差押命令が発せられることもあります。
訓 差し押さえられた給料はどのように処理されるのですか。
掘 勤務先に差押命令が送達されて一週間を経過すると、債権者の取り立てが可能となり、債権者から勤務先に対して直接取り立てが行われることになります。
訓 その場合には、勤務先は必ず債権者に支払わなければならないのですか。
掘 はい。弁済するか供託するかのどちらかです。但し、義務的に供託をしなければならない時もありますので、差押命令と一緒に送られてくる書類をよく読んで、その指示に従うことが必要です。
 なお、勤務先から本人に対して債権があるとき、労基法の二四条協定があり、弁済契約に基づいて給料との相殺が許される場合には、その分を差し引けます。
 なお、勤務先から本人に対して債権があり、労働基準法二四条をクリアーして給料との相殺が許される場合には、その分を差し引いて支払うことができます。
 なお、勤務先から本人に対して債権があるとき、労基法の二四条協定があり、弁済契約に基づいて給料との相殺が許される場合には、その分を差し引けます。

「まだらぼけ」の人は遺言できないか?


Q 私の父は最近ぼけてきて「まだらぼけ」状態です。それでも遺言できるのでしょうか。
A 「まだらぼけ」とは俗語でしょうが、老人の意識がはっきりしているときと、ぼけているときが、交互に起こる状態をさすようです。遺言者の意識がはっきりしている時なら遺言はできます。
Q 後で問題は起こらないでしょうか。
A その遺言で利益を受ける相続人(例えば長男)に対し、不利益を受ける相続人(例えば長男以外の子)から、その遺言は無効だという裁判を起こされる恐れはあります。
Q 例えばどういう形でですか。
A 長男に全財産を相続させると遺言すれば、長男以外の相続人は、まず遺留分減殺請求権を行使するのが普通です。しかし子の場合は遺留分は相続分の二分の一ですから、それでは満足しない相続人は遺言そのものを無効だと主張するでしょう。遺言が無効となれば相続分にしたがって遺産分割協議をすることになり、遺留分の二倍の額を相続できるからです。
Q 相続人の間で争いのおきるのを防ぐには、どうしたらよいでしょうか。
A 一つの方法としては、自筆証書遺言ではなく公正証書遺言にしておくことです。
Q 自筆証書遺言は、どうしてよくないのですか。
A 自筆証書による遺言は、自分で書けばよいのですから簡単に作れますが、遺言したとき遺言者はぼけていて、そのような遺言が書けなかった筈だと争われると、意識は明確だったことを立証するのはなかなか難しいことです。なぜなら誰も見ていないので、証人になる人がいないのが普通だからです。
Q 公正証書遺言にしておけば大丈夫ですか。
A 公正証書遺言にすれば絶対争われないというわけではありませんが、公証人や二人の証人の立ち会いのもとに口授するのですから、かなり防げることは確かです。争いになればこの人達が遺言するところを見ていたので、その様子を法廷で証言してくれるからです。
Q やむをえず「まだらぼけ」になってから遺言するとすれば、どんなことに気をつければよいでしょう。
A 公正証書遺言を作ることを医師に話して、遺言者の意識がはっきりしていて言葉をはなせることを確かめてもらって、その日時や医師の説明を記録しておくことは、後で役に立つでしょう。証人の二人は友人や知人ではなく、弁護士とか税理士とか、裁判になったとき証言することをいやがらない人に頼むことも大切です。
 裁判所の判例を見ても、公正証書遺言でも無効だとされている例がいくつかあります。「まだらぼけ」になってからではなく、もっとはやい時期に、誰が見ても意識がはっきりしていたことが争いようがない状態で、遺言しておくことが一番です。