親から子への贈与がしやすくなりました
訓 親子間の贈与をしやすくするため、相続時清算課税制度ができたそうですが、どのような内容ですか。
掘 まず贈与税の基礎控除が、現在の年間一一〇万円とは別に、二、五〇〇万円の非課税枠が設けられました。
訓 年齢制限があるそうですが。
掘 適用対象は贈与者が満六五歳以上の親、受贈者が満二〇歳以上の子に限ります。養子にも適用されます。
訓 孫は如何でしょうか。
掘 子が死亡しているときは、満二〇歳以上であれば代襲相続人として適用されます。
訓 配偶者も適用されますか。
掘 配偶者間では適用されません。
訓 住宅資金については、さらに有利だそうですね。
掘 平成一五年一月から平成一七年一二月までの三年間の特例措置として、住宅取得または増改築のための資金に限り、非課税枠が一、〇〇〇万円上乗せされ合計三、五〇〇万円となります。
この場合、贈与者が満六五歳以上の親という年齢制限は撤廃されます(子が満二〇歳以上という条件は残ります)。
訓 親が現在居住している自宅を贈与してくれるときでも、よいですか。
掘 それは駄目です。住宅取得資金あるいは増改築資金の贈与に限りますから。
訓 非課税枠を一回で使い切るのではなく、何年かに分けて贈与を受けるときは、どうなりますか。
掘 それは差し支えありません。
訓 非課税枠を超える贈与額についてはどうなりますか。
掘 非課税枠を超過する部分については、二〇㌫の贈与税が課せられます。
訓 そして親が死亡したとき、子の払う相続税にどのような影響があるのですか。
掘 相続時清算課税制度を選択した子は、親から相続したときに、それまでに贈与された財産と今回相続した財産を合計して計算した相続税の額から、それまでに納付した贈与税相当額を差し引いた額を相続税として納付します。
訓 もしそれまでに納付した贈与税の方が相続税より多いときは、どうなりますか。
掘 すでに支払った贈与税の方が納めるべき相続税の額より多いため控除できないとき、つまり相続税の方が先に支払ってある贈与税より少ない場合は、差額分が還付されます。
訓 以前に贈与を受けた財産が、親の死亡により相続が発生したとき、評価額が違う場合は、どうなりますか。
掘 その場合、贈与された財産は贈与を受けた時の評価額により評価されます。
訓 税務署へはどのように届出るのですか。
掘 贈与を受けた年の翌年の二月一日から三月一五日までに税務署に、この制度を選択する旨を届出ます。
贈与を受ける子は兄弟姉妹がそれぞれ、贈与する父、母ごとに選択できます。
詳しい内容をお知りになりたい方は、税務署へ尋ねて下さい。
境界争いは、新設の境界紛争解決センターへ
Q 新聞で見たのですが、東京の三弁護士会と土地家屋調査士会が提携して、境界問題の解決センターを平成一五年五月から発足させたそうですね。私も隣と境界でもめているので利用したいのですがどんな制度ですか。
A 従来境界でもめている場合、裁判所に境界を確定してもらう裁判を起こしたのです。ところが裁判所が中々現場を見てくれないし、何を基準に境界を決めればよいのか、判断材料が少ない等で、時間がかかりました。又弁護士も余り費用を貰えないというので受任したがらない等、市民にとって不便だったのです。そうした問題を解決しようと弁護士会と土地家屋調査士会が相談して作ったものです。
少し専門的になりますが、裁判所で行うのは形式的形成訴訟ということで和解が出来なかったものを所有権等の範囲を決めるということで、和解や仲裁判断が可能な仕組にしました。
Q 所有権の争いだけですか。
A 違います。借地権の範囲や地役権の範囲、遺産分割の線引等も取扱います。
Q これは東京だけで行うのですか。
A いいえ、既に名古屋や大阪では行われています。和解で解決した境界で公図も書き換えようと法務省もバックアップしています。
現在、東京のセンターでは、東京の土地だけを扱い、千葉、埼玉、神奈川の土地等は扱えません。
Q 手続はどのように進みますか。
A まず申立をする人は、事前調査の費用三万円を払って頂きます。そうすると土地家屋調査士会では公道との境を東京都に調べに行ったり、古い登記簿を調べたり、昔の耕地整理の図面を国立公文書館で調べたり、現場の実測をします。その結果を申立人に資料として渡しますので、それだけで解決する場合もあります。
それでも解決しない場合、申立費用二万円を納めて、相手を呼び出して調停が始まります。
解決した場合の成立費用は、普通二四万円を双方が半々負担するというもので、大変安くなっています。
Q 調停が成立しない場合どうするのですか。
A 調停も裁判所と違って解決委員(弁護士と土地家屋調査士)がすぐ現場に行って双方の話を良く聞きますので、たいてい成立すると考えられます。もちろん取得時効や他の法的主張をする為弁護士を代理人に立てて申立てをすることができますが、この場合裁判の費用の三分の二位と考えて下さい。
さて調停が成立しないで解決を解決委員に委ねる(裁判しても解決しませんから普通はこうなります)と仲裁合意をして頂き、解決委員はこれが境界だという仲裁判断をします。仲裁判断は控訴できません。つまり三審の最高裁の判断と同じで長引かないで解決します。
Q 大体解りましたがぜひ利用しようと思うので連絡先を教えて下さい。
A 東京土地家屋調査士会は港区新橋二丁目二〇番新橋駅前ビル一号館の七階にあり、電話は三五七三―〇五八七です。
詳しいバンフレットや規則などを取り寄せたい場合電話して下さい。
債権譲渡と詐害行為
訓 倒産しそうな会社からその会社の売掛金につき債権譲渡を受けた場合、他の債権者から、その債権譲渡を詐害行為として取り消されることがあると聞きましたが、そのようなことがあるのですか。
掘 裁判所は、「債務超過の状態にある債務者が、他の債権者を害することを知りながら特定の債権者と通謀し、右債権者だけに優先的に債権の満足を得させる意図のもとに、債務の弁済に代えて第三者に対する自己の債権を譲渡したときは、たとえ譲渡された債権の額が、右債権者に対する債務の額を超えない場合であっても、詐害行為として取消の対象となる(最高裁、昭和四八年一一月三〇日判決)」と述べています。
訓 具体的には、どのようなことですか。
掘 例えば、多額の負債を負ったB社が倒産しそうだとの噂を耳にしたA社が、A社のB社に対する三〇〇万円の債権を回収するために、B社に急行して、B社の唯一の資産であるB社のC社に対する一〇〇万円の売掛金債権を譲渡してもらったとします。すると、A社はその売掛金一〇〇万円をC社から回収することにより一部弁済を受けられることになりますが、B社に対する他の債権者は、B社から全く弁済を受けられなくなってしまいます。このような場合に、他の債権者(D社とします)は、A社に対して、A社がC社から取り立てた金額の中から、D社のB社に対する債権額(一〇〇万円とします)について、A社に返還を請求することが出来るのです。
訓 A社としては、自分の債権を回収しようと努力して債権譲渡を受けたのに、あとからやってきた他の債権者に対してその回収したものを支払わねばならないというのは不合理ではないですか。
掘 債権者は平等であるべきだという法律の建前から、抜け駆け的に一人だけ先に債権の回収をしてしまうのを許さないことにしているのです。
訓 A社としては、正当な権利行使をしただけであるとして、D社の要求に応じなかった場合にはどうなるのですか。
掘 この詐害行為による請求は、裁判所に訴える方法によって行うものとされていますので、D社は訴訟を提起してくることになります。ですから、A社としては、その訴訟の中で、詐害行為にならないことを主張するしかありません。
訓 詐害行為に当たるとされた場合には、A社は一〇〇万円をD社に支払う必要があるのですか。債権者平等と言うなら、A社(三〇〇万円)とD社(一〇〇万円)の債権額に応じて取り立てた一〇〇万円を三対一の割合で分配すべきではないですか。
掘 現在、裁判所は、詐害行為が成立する場合には詐害行為の金額すべて、この事案ではD社の債権額である一〇〇万円について、A社からD社への支払を命じています(最高裁、昭和四六年一一月一九日判決)。しかし、この判例に対しては、批判する有力な学説があり、債権者間の債権額で按分するべきだ(この事案では、A社はD社に対して二五万円を返還すればよい)と主張されています。
最高裁が、このような判断をしている背景には、会社の倒産時に於ける強引な取立行為を助長させてはならない等の政策的な配慮が働いているのかも知れません。