定款変更の必要性

訓  今年の五月から新会社法が施行されるということですが、私共の会社でも定款変更が必要でしょうか。
掘  基本的には新会社法では、機関設計の選択の幅が増えましたので、御社がどのような機関設計をするかの条文が必要になります。又、株式と計算関係では従来にない制度が新設されましたので、それを採用するには、定款変更が必要です。
訓  それぞれについて教えて下さい。
掘  まず新会社法は、株式譲渡に取締役会の承認が必要とされるなどの譲渡制限のある会社の場合、取締役が一人でもよいし、監査役は一人でも複数でもよく、会計監査権限のみに限定することもできるし、又監査役は全く置かなかったり、代わりに会計参与を置くことも出来るようになりました。
 従って従来のように取締役会を置く場合も「当会社には株主総会及び取締役のほか、取締役会及び監査役一名を置く」という具合に機関設計の基本の条文を入れた方がよいでしょう。
訓  ほかにはどんなものがありますか。
掘  株主総会の招集通知につき株主全員の同意があるときは、招集手続を要しない旨定款で定めることも出来ます。取締役の解任は議決権の過半数の出席で議決権の過半数にあたる多数で行う規定が出来ましたので、それも入れる必要があるし、新法で取締役や監査役の任期は一〇年まで延ばすことができますので、御社が何年か定める必要があります。その外取締役会の電磁的議決とか、取締役や監査役の責任限定の規定等従来ない場合は定める必要があります。
訓  株主、計算関係では、どんな規定が必要ですか。
掘  まず、株式の相続人に対する会社の売り渡し請求権が新設されました。「配当還元方式による価格により買い取ることが出来る」 等定めておくと、手続がスムーズです。
 又、譲渡制限会社には、種類株式制度が新設されましたので、取得請求権付株式(二条一八号)、取得条項付株式 (二条一九号) や株主により利益配当、残余財産の分配、株主総会の議決権に差を設ける場合、会社法三〇九条四項の特殊決議を経て定款変更する必要があります。
訓  その外どんなことが必要でしょう。
掘  新法では、株券不発行が原則となったのですが、「会社法の施行に伴う関係法律の整備に関する法律」 七六条四項により、既存の株券発行会社は放っておくと株券発行会社として扱われます。ですから株券不発行会社にして求められた場合のみ株主証明書で処理したい場合は、その旨定款変更する必要があります。
訓  それで全てでしょうか。
掘  いえ、新法による表現方法の変更等細かい変更事項は沢山あります。経過措置で救済される場合も多いのですが、たとえば定款を変更すれば取締役会を廃止して取締役を一人にすることも出来ます。御社の従来の定款をお持ち下さい。ご相談の上、検討しましょう。


 


離婚時の年金分割制度

 

○Q 夫婦が離婚した場合に、年金の分割が可能となる制度が設けられたと聞きました。
○A これまで、夫婦が離婚した場合、就労時間がなかったり短期間だったり、低賃金であった者(専業主婦等)は、実際には会社員や公務員である配偶者が働いて厚生年金(公務員であれば共済年金、以下も同じです)の保険料を払うのをサポートしていたにもかかわらず、基礎年金(国民年金)しかもらえず、離婚した夫婦間で年金受給額に大きな格差が生じてしまうという問題がありました。そこで、離婚した場合に、一方の配偶者の厚生年金を分割して、他方に分ける離婚時年金分割制度が設けられました。
○Q 年金分割の対象となるのは、どの部分ですか?
○A 被用者年金(厚生年金、共済年金、企業年金のうち厚生年金基金が負担する代行部分を含みます)のみで、基礎年金は分割対象にはなりません。
○Q 年金分割は、離婚しないとできないのですか?
○A そうです。ただし、離婚から二年経過すると、年金分割を行うことはできません。
○Q 平成一八年中に離婚しても年金分割は可能ですか?
○A いいえ。年金分割制度に係る規定は、後に述べる「三号分割」に係る部分を除き、平成一九年四月一日に施行されるので、同日以後に離婚がなされた場合に限られます。
○Q どのように被用者年金を分割するのですか?
○A 被用者年金の被保険者である第二号被保険者(サラリーマン、公務員等。自営業を除く)の保険料納付に基づく婚姻期間中の保険料納付記録を分割し、当事者双方の標準報酬の改定を行うという方法により分割します。
○Q 分割割合は自由に定めることができますか?
○A 分割割合とは、分割前の夫婦の対象期間(婚姻期間)における標準報酬総額の合計の内、分割により標準報酬が増額改定される者の分割後における対象期間標準報酬総額の割合をいいますが、上限は二分の一(五〇%)となっております。
○Q 離婚すれば、自動的に年金分割が行われるのですか?
○A 離婚をした当事者の合意(裁判所における調停又は和解の方法によることも、裁判外で行うこともできます)や、当事者の申立てを受けた裁判所の審判や離婚訴訟の附帯処分により、年金分割の割合を定め、その上で、当事者が、社会保険庁長官に対し、保険料納付記録の分割を請求することが必要になります。
○Q 年金分割について大体のところは分かりました。では、「三号分割」とはどんなものですか?
○A 被用者年金の被保険者の被扶養配偶者に第三号被保険者(サラリーマンや公務員の配偶者で一定の収入以下の者)であった期間があった場合、離婚した被扶養配偶者の請求により当然に、三号被保険者期間の第二号被保険者の保険料納付記録の二分の一が、第三号被保険者に分割(標準報酬の改定)されるというものです。
 三号分割は、被扶養配偶者のみが請求でき、分割割合は常に二分の一になりますので、この点で、先に述べた年金分割(一般に「合意分割」と言われます)とは異なります。
 三号分割は、平成二〇年四月一日以後に離婚された場合に請求することが可能ですが、その対象となるのは、同日から離婚がなされた日までの間の保険料納付記録のみですので、注意が必要です。
 また、婚姻期間中に、三号被保険者であった期間とそうでなかった期間がある場合、婚姻期間全体について合意分割を行うことも、三号被保険者であった期間についてのみ三号分割を行うことも可能です。


労 働 審 判 制 度

Q 平成一八年四月から「労働審判手続」という新たな制度が発足したと聞きましたが、それは、どういうものですか。
A 近時の司法改革の一環として、個別労働紛争を、①地方裁判所で専門的に、②早期に、③事案に即して柔軟に解決することを目的として新設された制度です。
Q どのような事件を取り扱うのですか。
A 個々の労働者と事業主との間に生じた労働関係についての民事紛争(例えば、解雇、配置転換、労働条件の引き下げ、賃金不払等)が対象となりますが、労使交渉、就業規則の変更、従業員間の紛争、雇用関係が成立する前の採用・募集、等は対象となりません。
Q 個別労働紛争を解決する制度は今までにはなかったのですか。
A 労働基準監督署による指導、都道府県労働局の助言・指導、紛争調整委員会のあっせん、裁判所の調停・仮処分・訴訟等がありました。
Q では、なぜ労働審判手続が作られたのですか。
A 従前の制度は、あるものは手続きに時間がかかったり、あるものは強制的に結論を出すことができなかったり等、それぞれに一長一短があったので、それらの不都合を解消する新たな制度として、「調停で解決できれば調停で解決し、三回の期日で調停が成立しなければ審判をする、その審判に不服があれば、異議の申し立てにより訴訟で争うことができる。」という制度が作られたのです。
Q その制度の概要を教えて下さい。
A ①一名の裁判官と、労使の実務家である二名の労働審判員の合計三名による労働審判委員会が、②三回以内の期日で、③調停又は審判によって解決することにし、その審判の内容は、判決のように零か百かの結論ではなく、権利関係を踏まえつつも事案に即した柔軟な内容のものとすることができ、④審判に異議があれば訴訟に移行して争うことができ、⑤手続きは非公開で行う、⑥複雑な事件で迅速に解決できないものについては手続きを終了させて訴訟に移行させることができる、というものです。
Q 手続の流れはどうなりますか。
A 申立があると、原則として四〇日以内に第一回期日が定められ、申立人と相手方は証拠や答弁書を準備します。第一回期日には、書面として、申立書と答弁書、書証が提出され、それ以外は口頭で主張立証することになります。必要な証人調べも行われます。当事者は第二回期日までに主張立証を終えなければなりません。労働審判委員会は、第一回期日から調停を試みることができ、第三回期日でも調停が不成立の場合には、審理を終結して、その日に口頭で労働審判を言い渡すか、又は、後日書面で労働審判を通知することになっています。
Q 審判に不服がある場合はどうなりますか。
A 二週間以内に異議申立をすることにより事件が訴訟に移行します。その場合、申立書は訴訟とみなされて訴訟に引き継がれますが、それ以外のものは引き継がれず、新たに主張立証をすることになります。